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大島弓子さんの世界に踏み込んだのは、14歳の冬でした。 通っていた英語塾の女の先生が、大島弓子さんを熱烈に愛していて、愛読書を貸してくれたのでした。 よしもとばななさんを語るとき、「大島弓子や岩館真理子の世界を、そのまま小説にした・・・」といわれることが多い。 そうかな〜、と思う。思うのだけれど、その読後感は、時々似ているので、そういうものなのかもしれない。とも思う。でも、よしもとばななさんよりもう少し乙女ちっくで、もう少し残酷な感じがします。音楽でいうと私はチャラさんとかぶります。 少女漫画界の大御所、ファンも多い、名作ぞろい、映画化やドラマ化もたくさんされている大島さんの作品。 今回ピックアップしたのは、「いちご物語」。です。 いちごの父親は、日本を捨て、凍てつく氷の国、ラップランドに魅せられおさないいちごを連れてラップランドで暮らしていました。ところがその父親が死に、いちごはひとりぼっちに。そのときいちごが思い出したのは、以前、旅行でラップランドにやってきた「いくた りんたろう」という17歳の青年でした。 美しいラップランドの自然を見て、りんたろうは「君の故郷の日本にも、似たような風景があるよ。日本に来ることがあったら、僕を訪ねるといい」といって、渋谷区神南の自分の住所をいちごに渡したのでした。 これはプロポーズ! たくさんの村の人々に見送られながら、いちごは単身、日本へ旅立ったのでした。 ところが、ついた先の日本は、りんたろうが言うような自然はどこにもない。鉄の塊が煙をはきながらそこらじゅうを走り回る。人はみんな早足で、まごまごしてると踏み潰されそう。空気も悪い、人も優しくない。やっとの思いで生田家にたどりついたいちご。 「りんたろう!」 心細かったいちごは林太郎にすがりつきます。「わたし、お嫁にきたよ!」 生田家にはお母さんがいません。林太郎が幼いとき亡くなってしまっていたのでした。純文学を目指す売れない小説家の父と、フェミニストで冷静沈着で働き者の大学生の兄、森太郎との3人暮らし。 そこへいきなり「お嫁に来たよ」とあっては、みんな驚かずにいられない。たまたま居合わせた、林太郎の幼馴染の然子(ゼンコ)も唖然。 でもお嫁に来たつもりのいちごははりきって料理をしようとします。 狩をして鹿をとってきて、焚き火をして肉を食べよう!でも、みんながそれを止めます。 日本には野生の鹿はいないみたい。 それからも、お風呂に入る習慣のないいちごをお風呂に入れるのにやっきになったり、焚き火のそばじゃないと眠れないという彼女を布団に連れ戻したり。 さらには、「家を訪ねておいでといったのは、結婚しようという意味じゃない」と林太郎にはっきりと言われてしまい、いちごは自分の勘違いに恥ずかしくていたたまれなくなります。 でもそこは心優しい生田家。身寄りの無いいちごをラップランドに帰すのはよしてくれます。そして日本で暮らしていけるように、きちんと学校にいって、勉強して、その間に林太郎を落とせるかどうか頑張ればいいじゃないか、と森太郎は言ってくれたのでした。 そんなわけで、生田家で一緒に暮らしていけるようになったいちご。 でも、林太郎は思いのほか、女の子からモテるようで、然子から「わたしも林太郎君がすきなの。わたしだって、生田家のためになるように色々なことを頑張るわ。だから、もしも、あなたが林太郎君と付き合うようなことがあっても、私は泣かないから、逆の場合でも、あなた、泣かないでね」と宣戦布告されたのでした。 しかも、林太郎はゼンコのことが好きみたい。 で、まあ、途中は長いのですっとばして、いちごは色々なことを頑張るんですよ。 小学校で勉強したり、アルバイトしてみたり、ゼンコと林太郎が付き合ったときのための「おめでとう」の言い方を練習したり。 その頑張り方が、あまりにいじらしくて可愛くて。 何にもできないいちごは、ずっと自分のことを責めていました。タダメシ食いの居候ですから。家事もがんばるんだけど、なかなかうまくいかない。コンニャクが虫に見えるし。オオカミ男に押し倒されて、無理やりキスされそうになったり。 神様 けしごむで 今日一日をけしさってください そうすれば昨日と明日がつながりあい わたしは昨日のわたしのまま 幸せな無知な子どもでいられます だれかわたしに用事ないか 林太郎の机 用事ないか 柱時計用事ないか ねじまいてほしいか ある日、家計に苦しむ生田家のために、ラップランドから持ってきたおばあちゃんの思い出の品のルビーの指輪を売ってしまいます。 「そんなことしちゃいけない!」と生田家ぱぱには怒られたけど、結局、いちごの気持ちは通じて、ぱぱがいちごに「ありがとう、助かったよ」と言ってくれました。 わたし役に立てた わたし役にたてた うれしいですパパ うれしいですパパ 人の役に立てるということを、すごく素直によろこぶいちご。なんか、そうだよな〜って。人の役にたてるから、それが嬉しいから、仕事とかすんだよな〜と。 なんか根本的なところをものすごく純粋ないちごが再確認させてくれた感じなのでした。 で、まあいろいろあって、その後、本物のいちごの生家の人が(実はすごい金持ち)いちごを迎えにきたり、林太郎がゼンコを振って、いちごが好きだと宣言してくれたり、します。 でもその頃から、いちごの体に異変が。 ヘンな咳が出るの。 病名は「環境不適合」。空気の悪い日本では、いちごは生きていけないというのです。しかたない。ラップランドへ林太郎と帰るいちご。 そんないちごが逝ったのは、まだ春にもならない雪の季節でした。吹雪の中、振り返り、振り返り、日本に帰る林太郎。でも、今でも、二階の自室にいると、一階から大声がして、「林太郎!わたしお嫁にきたよ!」といちごが立っているような気がするのでした。 やわらか〜い、ふわふわとした絵の先に、こういう残酷でいたたまれなくなるようなラストを持ってきてしまうところが大島さんだな、と。どうしていちごは死ななくちゃいけなかったんだろう。どうして、他の少女漫画みたく、「林太郎と末永く幸せに暮らしました」としてくれなかったんだろう。でも、そうだったらこんなに心にひっかかるお話にはなっていなかったんでしょう。 いちご物語は、題名も絵もストーリーも少女漫画ちっくなのに、ラスト2ページで胸におっきな傷を作られるので、ご注意ください。 いちご物語 (白泉社文庫)
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